日本の水問題の現状と課題■おいしい水の定義とは
◆水を買って飲むのが当たり前の時代になった
この10年余りの行政の努力や浄水技術の進歩などで、日本の水道水の質は飛躍的に改善されたといっていいでしょう。かつて国民生活センターの調べでは、水道水は「まずい」という答が圧倒的で、それはほとんど定説になっていました。 ところがいま、そうした調査をしようとしてもなんの答えにもならない結果となるのは明らかです。つまり、大多数の人が「水道水は飲まない」と答えると思われるからです。

それこそ、あれよあれよという間に、飲み水はボトル入りの水が当たり前の時代となってしまい、いまでは常に手の届くところに水が売られており、それを買って飲むことになんの疑問も痛痒も感じなくなっています。 そして、飲みつづけているうちにボトル水の味に馴れ、その中身にしても、お金を払っているのだから安全なのは当然で、「安全でおいしい水」などという思いすら頭に浮かんでこないというのが実際のところです。
人がいま水を買いに走るのは、水道水は「まずい」というトラウマからきているだけでなく、多くの日本人には、もはや水道水そのものを飲む習慣がなくなったと断じることもできそうです。 まさに、てっとり早く「安全」と「味」の両方を同時に買ってしまおうという現代人の振舞いですが、飲み水はおろか、炊飯、調理、洗顔までも市販のボトル水でまかなう人がいるとも聞いています。
◆あいまいな、おいしい水の定義
1984年、当時の厚生省(現・厚生労働省)は『おいしい水研究会』なるものを発足させました。ここで、全国の水道水の水質や水に含まれる成分などから、「おいしい水」とはなにかを導きだそうとしたのです。 その結果、下の表に示した7項目の「おいしい水」の条件を定義したのですが、これには次のような但し書きがついています。
「ここに示した数値は、おいしい水の一応の目安である。一般的にいって、これに適合したものであれば、ほとんどの人がおいしく飲めるといってよいと思われるが、逆に、この一部に適合していないからといって、かならずしもその水がおいしくないということではない。たとえば、硬度や遊離炭素の濃度がこの条件にはずれた水であっても、その他の水質成分のバランスからおいしく飲める水というものもあれば、おなじ水でも、飲む人の好みやいろいろな条件によって、おいしく感じられたりそうでなかったりもする」
このコメントでもわかる通り、おいしい水の判定はたいへん難しく、そもそもおいしい水の定義をすること自体に無理があるように思えます。 おいしい、あるいはまずいといった感覚は、きわめてあいまいな個人的嗜好の部分であり、おなじラーメンを食べながら「この店、おいしいね」、「いや、たいしたことないよ」といった会話を、日常、口にすることは珍しくありません
下表に示された数値を見ても、ミネラルの指標である1リットル当たりの硬度の値が10~100mgまでと、10倍もの開きがあることからも、味覚は主観的なものであることがうかがえます。
◇おいしい水の条件 ( )内の数値は目安とする値
1.蒸発残留物 (30~200mg/L) | 主にミネラルの含有量を示し、量が多いと苦味等が増し、適度に含まれるとまろやかな味がする。 |
2.硬度 (10~100mg/L) | ミネラルの中で量的に多いカルシウム・マグネシウムの含有量を示し、硬度の低い水はクセがなく、高いと好き嫌いがでる。 |
3.遊離酸素 (3~30mg/L) | 溶け込んでいる炭酸ガスや酸素の量を表す。水にさわやかな味を与えるが、多いと刺激が強くなる。 |
| 4.過マンガン酸カリウム消費量(330mg/L以下) | 有機物量を示し、多いと渋みをつけ、多量に含むと水の味を損なう。
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5.臭気度 (3以下) | 臭いがつくと不快な感じがする。臭気度 3以下とは、 異臭味を感じない水準。 |
6.残留塩素 (0.4mg/L以下) | 水にカルキ臭を与え、濃度が高いと水の味をまずくする |
7.水温 (20℃以下) | 冷やすことによりおいしく飲める。体温と比較して20~25℃低い温度(10~15℃)の水がおいしいとされている。 |
このおいしい水の条件が策定されたころの国民生活センターの調査によると、日常の飲料水のなかで「生水」や「白湯(さゆ)」を飲まないという人が63・4%もいて、とりわけ若年層に多いということでした。これは、水道水がまずいから飲まないのか、水道水を飲む習慣がなくなったのか、その分析に苦しむところでもあります。水道水を飲まないという人が63・4%もいて、とりわけ若年層に多いということでした。これは、水道水がまずいから飲まないのか、水道水を飲む習慣がなくなったのか、その分析に苦しむところでもあります。
当時は、なんとしても国民の水道水離れを阻止しようという意気込みから、こうした水道水に対する定義をしてみせたのでしょうが、自分が好きな銘柄のボトル水を自由に手にすることができる現代にあっては、水のメーカーが、製造にあたって参考にする程度の意味しか持たなくなっている気がします。
しかし、この報告がマスコミに発表されたときは大きな反響を呼びました。 以降、「おいしくて安全な水」を求める世論がしだいに高まっていき、それを背景に、あとで紹介するところの「水ビジネス」がさかんになっていくのです。